退職金制度制定、変更
会社にとって退職金は必ず備えなければならないというものではありません。退職金制度を制定する、 しないは会社の任意であり、従業員の入社時に取り交わす労働契約の条件明示では賃金、労働時間等は 書面で明示しなければなりませんが、 退職金は口頭で明示することで足りますし、就業規則でも制度がある 場合にのみ定めなければならない相対的必要記載事項です。任意である退職金制度を整える以上、 会社にとっても従業員にとっても有意義な退職金であるべきでしょう。
適格退職年金の廃止
平成14年3月末日に「適格退職年金」が廃止され、 既存の適格退職年金も平成24年3月末日までに廃止するか、 他の制度に移行しなければなりません。適格退職年金とは、 昭和37年の税制改正により法人税法に設けられた 「税制適格退職年金」の略称です。
適格退職年金は、会社が信託銀行、生命保険会社と一定の適格要件を満たした退職年金契約を結び、国税庁の承認を得る ことによりおこなわれた退職金の社外積立制度です。事業主の負担する掛金が全額損金として扱われるなど、税制上の優遇措置があり、 退職金支払原資を事前に拠出することにより、退職金の費用負担を標準化することができました。
退職金支払原資を、同じく社外で積み立てる制度に厚生年金基金がありますが、適格退職年金は15人以上の加入員で足りるため中小企業に 広く普及していましたが、受給権の一層の保護と情報公開を図るために新たに「確定給付企業年金」 が作られたために廃止となりました。
適格退職年金の問題
適格退職年金の問題は、適格退職年金が廃止になるということではありません。むしろ廃止になるということで、 これまで先送りにされてきた問題があらわれたのです。適格退職年金の問題は積み立て不足 が発生していることです。
積み立て不足の原因は、運用利回りの低下です。適格退職年金は掛金に対して一定の運用益(予定利回り)がつくことを 前提にして掛金が設定されますが、実際の運用利回りが予定利回りに遠く及ばない結果になってしまいました。 平成6年以前の契約であれば、当初5.5%の予定利回りを見込んでいましたが、バブル崩壊後の低金利により1%前後の運用利回り となってしまったため積み立て不足が発生したのです。
18歳で入社した社員が60歳で退社するときに、1,200万円を退職金として支給する場合に 5.5%の運用利益を見込んだならば、 月額6,318円の積立金が必要になります。しかし月額6,318円の積立金に、 運用利回りが0.75%の場合には374万円しか貯まりません。 これは極端な例であり、実際0.75%の運用利回りが全期間続くことはないでしょうし、信託銀行、生命保険会社に支払う事務費 の存在も 無視して話を進めていますが、1,200万円−374万円=826万円の積み立て不足が発生します。
積み立て不足
先ほどの374万円しか積み立てられなかった社員が、退職するときの退職金の額は374万円という訳にはいきません。 適格退職年金で積み立てる金額はあくまでも手段であり、 適格退職年金導入時に労働基準監督署に提出した「退職金規程」 に1,200万円支払うと定めていれば、 会社は残りの826万円を補填しなければなりません。
適格退職年金は会社全体での積立のため、退職年金を受け取る人が少なかったときには、積み立て不足を他の人の積立分 から融通することができたため問題を先送りすることができましたが、団塊世代が大量退職を向かえるときには 適格退職年金内での融通はできなくなります。
そのときには会社内の保留金で積み立て不足を補填しなければなりません。補填できるだけの保留金がなければ、 最悪「退職金倒産」すらおきかねません「ない袖は触れぬ」と居直るわけにはいかないのです。
移行、廃止の前に
適格退職年金の廃止に伴い他の制度に移行するときに、積み立て不足の現実から目をそむき問題を先送りにしてしまうと、 何年後かには本当に修復不能な悲惨な結果と向き合うことになりかねません。移行の前に退職金額の決定、 計算方法の見直しをする退職金制度の変更が必要になります。
退職金規程も就業規則の中にある別規程ですので会社側の一方的な都合で変更できるものではありません。 積み立て不足があるので単に支払う退職金の額を減らしたいということは、完全に労働条件の不利益変更になりますので、 従業員も簡単に同意できないでしょう。
退職金制度の変更時には、「既得権」と 「期待権」の2つに分けて考えなければなりません。 既得権は、 入社時あるは退職金導入時から退職金制度変更時までの期間で旧退職金規程で約束された期間ですので、 文字通り既に獲得した権利になりこれを変更することは基本的に無理があります。 期待権は退職金変更時から退職時までの期間 に今後期待できる権利になりますので、 こちらは変更に高度の合理性があれば認められる場合があります。
変更への高度の合理性の有無をどこで認めるかは、それが全てではありませんが従業員の同意を得るための努力にあります。 退職金制度変更の経営上の必要性、代替措置、経過措置等を従業員と同意を得るために何度も話し合い、それでも結果的に 従業員の同意を取り付けることができない場合に、その過程等に高度の合理性の有無を確認します。はじめに高度の合理性の有無ではなく 、まずは同意を得ることのできる変更でなくてはなりません。
退職金の意義
退職金制度を制定または変更するときに第一に考えなければならないことは、なぜ会社が退職金を導入するのか、 なぜ会社が退職金を見直すという会社にとっての退職金の意義をはっきりさせることです。
考えられる意義として、長期勤続の功労に対する報奨としての功労報奨、 定年退職後の所得の補填としての生活保障、 在職中に支給すべき賃金の一部を退職時にまとめて支給するものとしての賃金後払い、 人材募集、定着対策、 会社都合退職時の手切れ金等のための労務管理、 あるいはよその会社もやっているからといった企業慣習等があります。
考えても退職金の意義が浮かんでこないというときは、会社にとって退職金制度は必要がないのかもしれません。 退職金は必ず払わなければならないものではありませんので、そのような場合には無理をして退職金制度を続けるよりは 最初から導入しない、あるいは廃止すべきかもしれません。
会社にとっての退職金の意義があきらかになれば、それを実現するために利用する制度、積み立てなくてはならない金額がはっきりします。
退職金額設計
多くの会社の退職金規程での退職金の設計する計算方法は、「基本給連動方制」 が採用されています。 これは、退職時の基本給×勤続年数別係数×退職事由別係数 によって計算する方式です。 勤続年数に応じて係数が高くなるという量的な面が強く、そのうえ給与体系が年功序列型であれば基本給も 勤続年数に応じて上がるため、長く勤めれば勤めるほど退職金額は膨張していきます。
賃金制度に成果主義を導入し、今までの年功序列重視から業績重視へと変更する会社が多くなる中、退職金制度でも 職務遂行能力や会社への貢献といった勤続の量から質を反映させるために 「ポイント制」 や「別テーブル制」等の計算方法を 取り入れる会社が増えています。
退職金計算方法 ● 基本給連動制 基本給×勤続年数別係数×退職事由別係数 ● ポイント制 勤続ポイント等の定めたポイントの累計×ポイント単価×退職事由別係数 ● 別テーブル制 別に定めたテーブルの算定基礎額×勤続年数別係数×退職事由別係数 ● 定額制 勤続年数等に応じて単純に退職金額を定める制度 ● 社外確定拠出制 中退共や確定拠出年金を利用するときの、退職金額ではなく毎月拠出する掛金を定めるもの ● 退職金前払い制 月々に支払う賃金に合わせて積み立てるべき退職金の額も支払うもの |
ポイント制、別テーブル制を比べた場合、一般的には入社時から退職時までの貢献の積み重ねの設定はポイント制で 計算する方が容易であるため、ポイント制を採用する会社が増えています。
退職金計算方法は、どの方法が良くてどの方法が悪いというものではなく、基本給連動制であっても適切に設定をすれば 十分に役立ちますし、ポイント制を使う場合にも設定が良くなければ機能しません。退職金の意義に合う計算方法を上手 な設定により使うことが一番です。
退職金支払原資積立先の選択
平成14年の退職給与引当金の廃止により、 退職金支払原資の社内積立の損金算入は認められなくなりましたので、 退職金支払原資の積立先は基本的に社外にあるファンドの中から選択することになります。
社外退職金原資積立先 ● 中小企業退職金共済(中退共) ● 特定退職金共済(特退共) ● 確定拠出年金 ● 確定給付企業年金(規約型、基金型) ● 厚生年金基金 ● 生命保険等 |
適格退職年金の廃止に伴い確定給付企業年金が作られましたので、本来であれば適格退職年金の移行先は 確定給付企業年金の規約型になるはずでしたが、受給権の保護と情報公開のためのコストが非常にかかるために よほど資金力のある会社ではない限り利用できません。
上記のうち中退共、特退共、 確定拠出年金は確定拠出型で、確定給付企業年金、 厚生年金基金、生命保険等は確定給付型になります。 確定給付型というのは、あらかじめ退職金の額を約束しているもので、運用利回りにも責任を持つということになり、 適格退職年金も確定給付型になります。それに対して確定拠出型は、退職金の額を約束するものではなく、掛金として 拠出する額に対して約束をするもので運用の結果の責任を会社は持ちませんので積み立て不足が生じても補填する義務はないというものです。
確定給付型、確定拠出型を比較した場合、運用リスクを負わない分確定拠出型が有利に思えますが、 掛金として拠出する額に対して約束をするということは、拠出した段階で権利が従業員に移ることになるので、 自己都合、会社都合と退職金の額に差をつけることができませんし、不祥事を起こして解雇するときにも退職金が支払われることになります。
会社の規模によっては入りたくても入れない制度や、入れはするけれども効率の良くない制度もあります。 中退共は中小企業向けですので、常用従業員数、資本金・出資金に制限がありますし、確定拠出年金はランニングコスト がかかりますのである程度以上の規模がなければ向きません。
どの制度が一番良いというものではなく、会社ごとに適した積立先を単独あるいは組合して利用することになり、 場合によっては退職金制度をなくすことがベストな選択になることもあります。
退職金制度の作成、変更には、退職金規程の人事労務手続と 退職金原資積立先(ファンド)の選択の2つのポイント についてそれぞれ考えなければなりません。 2つのポイントが有効に作用しあう時に退職金制度は、初めて機能します。 立派な退職金規程を作成したとしてもファンド先の選択を失敗しては、 それこそ「絵に描いた餅」にしかなりませんし、 たとえファンド先の選択に誤りがなくても退職金規程の人事労務手続に手抜かりがあれば、 後の大きなトラブルの種となります。
業務手順
当事務所では、人事労務の専門家としての社会保険労務士として退職金規程の作成、変更をおこない、 その実現のための退職金原資積立先(ファンド)の選択にはファイナンシャルプランナー、DCプランナーとして 適切な提案をおこないます。大手保険代理店と業務提携していますので、最適なファンド先をご提案します。 委託をいただけた場合の業務の流れは次のようになります。
1.退職金規程現状分析(変更の場合) 2.問題点把握、(新)制度打ち合わせ 3.退職金制度設計 4.ファンド検討 5.従業員説明会、個別同意取得 6.退職金制度作成 7.届出 |
会社に懇意の保険代理店があるというときには社会保険労務士としての業務のみ、顧問の社会保険労務士の方が いらっしゃるときには退職金原資積立先のご提案のみの業務でも承ります。 その場合には医療での「セカンド・オピニオン」 的な役割を果たせると思います。
現在の適職退職年金の現状分析をキャンペーン価格5,000円 にて承りますので興味のある方は是非ご利用ください。
対応地域 顧問契約については、東京23区(練馬区・豊島区・杉並区・ 世田谷区・中野区・新宿区等)、 多摩地区(東村山市・清瀬市・東久留 米市・小平市・小金井市・国立市・国分寺市・三鷹市・武蔵野市・西東京 市・武蔵村山市・東大和市・立川市・府中市・調布市・昭島市・福生市等)、 埼玉県南部(所沢市・新座市・入間市・狭山市・ふじみ野市・富士見市・志木市・朝霞市・三芳町等)にて、承ります。 スポット契約、及びセミナー・講演については、特に地域の指定なく、ご相談の上 にて承ります。
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